命がけの恋(休止中)

  1. 2008/01/26 【命がけの恋】act.14
  2. 2007/11/19 【命がけの恋】act.13
  3. 2007/11/17 【命がけの恋】act.10
  4. 2007/11/16 【命がけの恋】act.9
  5. 2007/11/02 【命がけの恋】act.12
  6. 2007/10/30 【命がけの恋】act.11
PREV→

【命がけの恋】act.14


 イライラする。


 何が?と聞かれても、分からないと言うしかない。
 ただ、イライラする。
 俺はこんなヤツだったのか?
 そう自問してしまうくらい。
 今、苛立っていた。
 胃が痛い。
 そんなことにも、苛立つ。
 胃炎なのはそのせいなのに。
 俺は一体、どうなってしまったんだ?

「海晴?」

「……何?」

「いえ、具合が悪いのかと」

「…ヘーキ。けど、今ちょっと…近づかないで欲しい。多分、傷つける」

「何故…ですか?」

「……頼む」

 今の俺は、誰とも構わず傷つけてしまう。
 望まないこと。
 絶対に、あってはならないこと。
 だから、『俺』としての理性が残っているうちに、遠ざける。
 それ以外に、方法が見つからなかった。

「もし明日も同じでしたら、病院へ連れて行きます。それでいいのでしたら」

「…ああ」

「分かりました。今は、離れていますね」

 そう告げて、部屋を出て行った。
 薄暗い部屋。
 残ったのは俺よりも、苛立ち。
 


「…分かっています。多分もう…限界なのでしょう。私も…」


 

【命がけの恋】act.13

「今、何を飲みました?」


「…何って……整腸剤」

「種類の違う錠剤を、三つもですか?」

「……腹の調子が悪いからな。ちゃんと病院で貰った、正しい薬だ」

 嘘が一つ、重なる。
 調子が悪いこと、病院で貰ったことは本当のことだけど…。
 それも全部、嘘になってしまう。
 残るのは、罪悪感。

「どうした?」

「それは私の台詞です。昨日まで健康だった人が、薬を飲み始めれば…」

「心配…させちまったか?」

「…驚きはしました」

 それは心配をしてしまったという、ある意味遠まわしな言い方。
 少なからず、負担をかけてしまっていたんだ。
 俺が何でもないと思っていることでさえも。
 一瞬、ある言葉が頭を過ぎった。
 考えたくもないこと。
 そんなことは、あってたまるか。
 距離を置く。
 もともと距離はある。
 その距離をもっと置いてしまったら、俺はどうなるんだろう。
 失ったら狂ってしまうのだから、一歩手前なのか。

「悪かった。本調子になるまでは飲み続けるから、覚えてくれよな」

「…なるべく早めに治して下さい」

「あ〜…いや、そればっかりは薬と腹に聞いてくれ」

「…そう、でしたね」

 治らないかもしれない。
 それは、真っ先に浮かんだ言葉。
 苛立ちなら多分、ある程度なら抑えられる。
 だけど、この想いは無理だった。
 治らないかもしれない。
 きっと、正解なんだと思う。

【命がけの恋】act.10

「泣くことは、卑怯な手段なのかもしれません」


「と言うと…泣かれたのか?」

「ええ。公衆の面前で」

「それは…」

 それは多分、卑怯という表現は正しいと思う。
 人が見ていれば、断れる話も断れなくなる。
 説得でもなければ、一種の脅しのようなもの。
 泣くことは悪いことじゃない。
 ただ…場所次第では、卑怯になってしまうんだ。

「受けたのか?」

「断りましたよ。私はどこへも行けません。どうしても行くなら、海晴も一緒ですと」

「何で俺も」

「事態の、一蓮托生です」

「うわっ…」

 つまりは、行く気なんて全くないということ。
 俺は別に構わなかったりするが…それってどう見られるんだろう。

「で、向こうの反応は…って、泣かれたんだったな」

「彼女は去り際、『三條くん酷い』と言いました」

「うわ〜…キッツー」

 酷いのはどちらなのか。
 多分、どちらも酷くて、どちらも酷くない。
 俺はそう思うけど、他の人から見れば、泣かせた方が酷いとなる。
 泣いた方は、可哀想だと。

「お前…偉いよな」

「何がです?」

「だって、彼女の一方的な言葉を受けても怒らなかっただろ?」

「怒る理由もありませんでした」

「それでも偉いよ、うん」

 どんな言葉を投げかけられても。
 目の前で泣かれたとしても。
 感情任せにならなかったことは、偉いと思う。
 だから褒めた。

「なあ…お前も辛い時は泣いたっていーんだぜ? それは卑怯じゃない」

 我が侭で泣くのではないから。
 泣くことは悪いことじゃない。寧ろ、泣けることはいいことだ。

「……覚えておきます」

「胸に刻めよ」


【命がけの恋】act.9

「ねえ、三條くんを説得してくれない?」


「はあ? 何で。っつーか、主語とかねーのかよ」

「この前頼んだ手紙の返事、三條くん断ったの。で、断られて一日デートを申し込んだの」

「お前が?」

「手紙の子」

 漸く理解できた。
 この間の手紙は、コイツじゃなくて頼まれた手紙だったらしい。
 本人からコイツへ。
 コイツから俺。
 そして俺から永生へ。
 なんとも長い旅路だ。
 その手紙の返事を、断ったらしい。
 断られた手紙の主は、諦めるために一日デートを申し込んだと。
 それも断られちゃ…。

「あのな…俺がそこまで介入できないって言うか、無理」

「何でよ? たった一日付き合うだけなんだよ?」

「…それがで無理だから、無理なんだよ」

 出歩くこと自体に問題はない。
 ただ…人ごみを行くのが心配だ。
 永生本人も、嫌っている。

「因みに、どこへ行こうって?」

「遊園地」

「…なおさら無理だ、そりゃ」

 乗り物一つ、乗れやしない。
 いや、心配なのはそれ以上に、発作を起こさないかだ。
 突然割れる風船。
 突然泣き出す子供。
 そして、分かっていても驚くだろう。突然鳴り響くファンファーレ。
 無理だった。

「えー、どーしてよ?」

「どーしてって言われてもな…人ごみとか人の多いところは行かねーってしか言えないっつーか」

「何よそれ?」

「だーーーっ! そんなに説得したきゃ本人に言え! 俺は知らん!」

 理由は言えない。
 言えないからこそ、理由を知っている俺が止めなければならない。
 それが俺にできる唯一のことだから。

「……言える訳、ねーよ…」


【命がけの恋】act.12

「ストレス性の胃炎ですね」


 そう言われて、出された薬を見る。
 真っ白な錠剤。
 こんな物が俺に必要だなんて、思いたくなかった。
 人間だから、ストレスだってある。

「っつーか、血ィ吐いたなんて言えねーよな」

 今日、病院に来たことも全部。
 俺のストレスは、両親が原因なんだ。絶対にそうだ。
 血の繋がりのない永生を、自分の子として受け入れられない母親と。
 その母親が時々起こすヒステリーを、見て見ぬフリをする父親と。
 両親の元を捨てて、永生を選んだ俺への風当たり。
 だから問診には、家庭内に問題があると言った。
 嘘は言っていない。
 でも、嘘になってしまう。
 本当の原因は、何も出来ない自分に対しての苛立ち。
 そして、日々積み重なっていく想い。

「発散はしていたはずだが…」

 何が悪かったのか、分からない。
 趣味のカメラを、ふらりとやっても。
 一人でフリータイムのカラオケをやっても。
 その程度では、十分発散したとは言えないのか。

「…薬の隠し場所…どーするんだ、俺?」

 三種類だけとはいえ、一週間分。
 カバンの中や、タンスの中は見つかる可能性がある。
 隠せそうな場所は、机の引き出し。それも鍵が付いている所だ。
 いつもは鍵なんて付けっぱなしで、開きっぱなしな場所。
 それが閉められたら…確率十割で怪しまれる。
 けど、そこしかないなら、

「隠すしか…ないんだろうな」

 また一つ、積み重なる。
 嘘と、秘める想いと。

 あとどれくらいだろう…。


【命がけの恋】act.11

 この世に怖いことなんて、ただ一つしかない。


「って話なんだけど、結構くるだろ?」

「いや…別に」

「マジかよ?!」

 何気ない会話から始まった怖い話。
 聞いていた他の奴らは、口々に怖いというが…。
 俺に恐怖心は芽生えなかった。
 別に、怖い話が好きという訳じゃないし。嫌いでもない。
 これくらいのものじゃ、怖くならない訳でもない。
 俺にだって怖いものはある。
 それは、現実的な恐怖。

「お前、平然としてるよな。怖いものがないって言うか、怖いもの知らずって言うか」

「あのな…俺だって人間なんだ、怖いことだってあるさ」

「ふーん。何なのさ?」

「何って…」

 自分自身が死ぬことなんて、少しも怖いとは思わない。
 俺が一番怖いと思うこと。
 それは、アイツを失うことだ。
 だけど、それは表には出してはならない。
 多分、俺は狂ってしまう。
 今も恐怖している心が、ここにある。
 毎日が、怖い。

「…失うこと」

「うわっ、ロマンチスト」

「お前な〜…」

 笑うのは、知らないからだ。
 大切な人を失ってしまうかもしれない恐怖を。
 きっと知った時にはもう、遅いのかもしれない。

「そー言えば、三條も怖くなかったか?」

「いえ、私も怖いとは思いませんでした」

「お前もか。もしかして、三條も失うことが怖いって言うんじゃ…」

「違います」

 思う。
 誰よりも、何よりも、永生が一番恐怖心を背負って生きていると。
 俺は思っていた。
 けど、そんな思いよりももっと大きく、


「私が一番怖いのは、こうして今、ここに存在していることです」


 その心に巣くう恐怖は、計り知れなかった。


 生きていること。

 生きることが…恐怖。


  Template Designed by めもらんだむ RSS

special thanks: Sky Ruins, web*citronDW99 : aqua_3cpl Customized Version】