紡ぐ、想いは遥か…

  1. 2008/09/05 【紡ぐ、想いは遥か…】act.3
  2. 2008/06/23 【紡ぐ、想いは遙か…】act.2
  3. 2008/06/09 【紡ぐ、想いは遙か…】act.1
  4. 2008/05/09 【紡ぐ、想いは遥か…】act.0

【紡ぐ、想いは遥か…】act.3


 晴夏が生まれた。

 正確には、晴夏の生まれ変わりが生まれた。



 知らせを受けたのは、大学に通い始めて間もなく。
 ちょうど、喫茶店に通い始めた頃だった。

「晴秋さん、久し振り……でもないか?」

「そうですね。霊体の時は自由に会えていましたが、そう考えれば生身ですと久し振りですね」

「もう霊体で会うことはないと思う」

「……未練は、ありませんね。とても残念ですが」

 何の未練かは、あえて聞かなかった。
 万国共通。
 いや、父親共通。
 娘の花嫁姿を見ること。
 それが未練だと、瞬間的に分かってしまったからだ。

「今から練習がてら、お義父さんと呼んでも構いませんよ?」

「…とりあえず、今まで通り晴秋さんで。そっちの方がしっくりくるし」

「未練ができました」

「……晴夏が居たら、速攻でツッコミがきた気がする」

「何となく、違和感大爆発とか言われそうです」

「彼女なら、絶対に言うと思う」

 きっぱり、断言。
 晴夏の喜怒哀楽はくるくる忙しくて。
 特にツッコミ厳しかった。
 それも楽しい思い出だ。
 と、思う俺は、少し人らしくなれた気がする。

「所で、会って行ってくれますか?」

「………………ちょっと、自身がない」

「何の、ですか?」

「……えーっと、泣きそうになるから」

 貰っていた写真で、もう分かっている。
 晴夏に間違いない。
 だけど会った時、泣けずに居られるか分からなかった。
 嬉しいから泣くのか。
 それとも、ゼロに泣くのか。
 キミを祝福したい。
 笑って……。

「紡さん」

「はい?」

「晴夏のこと……想っていてくれて、ありがとう。だから、生まれたあの子も、想ってください」

 生まれ変わりでも、晴夏であって、晴夏じゃないかもしれないけど。
 今はただ、世界に生まれたことを祝福して欲しい。
 そう、言われた。

「………………手を、握っても……構わない?」

「ええ。きっと喜ぶでしょう」

 彼女に会ったら、まず手を握ろう。
 そうして世界に在(い)ることを実感して。
 生まれてきてくれたことを、おめでとうと、ありがとうと伝え。
 キミに、話をしようと思う。
 


 晴夏の生まれ変わりが、生まれた。
 俺を知らないキミだけど、俺はキミを知っている。

 触れた温もりの優しさを、今でもずっと……。


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【紡ぐ、想いは遙か…】act.2

 その人は、いつもそこに居て見守っていた。

「……そこを見ても、何もない」

「分かっている。だけど、視てしまうんだ」

 キミが、俺を変えてくれたから。
 俺はその人の想いを、紡いで伝えたいと思った。
 たとえ悲しみが残るとしても。
 いつか、思い出にできるはずだから。
 コーヒーを飲みながら、マスターの視えない方を視る。

『あの人のコーヒーは、美味しい?』

 その人が言う。
 悲しさを隠し切れない、優しい笑みで問いかける。

「(美味しいけど、悲しい)」

『そう……』

 声に出さず、唇だけで伝える。
 いつの頃からか、声にせずとも話せると知った能力の一つ。
 キミと居た頃は、それができるにも関わらずしなかった。
 多分、それは間違っていない判断。
 キミは霊。
 けど、確かにこの世界に存在していたから。
 晴夏という、魂が。

「マスター、もう一杯」

「……飲んだら、閉店だ」

「いつも唐突なんだな」

「……お前は分からん奴だ」

「それは初めて言われた」

 キミが言っていた『アナタが、凄く大切だよ』は、今も強く残っている。
 俺がどんな風に見えるかなんて、関係なかった。
 たったそれだけで、十分すぎるほど。
 反則だ――と、真っ赤になった俺が居たんだ。
 この時、キミに居て欲しいと思ってしまった。
 結局、それは誰のためにもならない。
 不安だけが、先にある。
 
「だが、一つだけ分かることもある。お前は、同類だ」

「…………」

 言葉は返さず。
 笑う。
 傷を持つもの同士、分かり合えることもある。
 舐めあうことはしない。
 馴れ合うこともまた、しない。
 笑うのは、そういうことじゃなく。
 そうなんだよという意味。
 
「……閉店だ」

 通じたのか、そうでないのか。
 空になったカップを片付けられ、仕方なしに立ち上がる。
 もう一杯飲んで、キミを想いたかった。

「じゃ、また次の開店に」

 代金を置き、ドアを開ける。

『またどうぞ』

 その人は、優しく微笑んで見送ってくれて。

 俺は少し、泣いた。

 
 晴夏に……会いたかった。


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【紡ぐ、想いは遙か…】act.1


 ふと、歩みを止めた。
 
「……珍しい」

 その喫茶店は、大学へ続く道の途中にあった。
 今日は珍しく『OPEN』になっている。 
 思わず呟いていた。
 普段なら『CLOSE』のまま。
 いつ通っても、その看板がひっくり返ることはなく。
 
 カラン、カラン――

 ドアを…開けていた。
 
「…………っしゃい」

 コーヒーの匂いが漂う、薄暗い空間。
 マスターは、初老の男性だった。
 とりあえず、カウンター席に着く。
 メニューは……コミックスを横にしたサイズ。
 軽食が少しと、コーヒーと紅茶系が数種。
 ジュースはオレンジとコーラ、ジンジャーとカルピス。

「ブレンドと、フレンチトースト」

「……豆は?」

「マスターのオススメで」

 注文を言うと、黙々と作業に入る。
 ゆっくりと豆を引く、機会じゃない音。
 目を閉じる。
 浮かぶのは、キミのことばかり。
 一ヶ月、二ヶ月と時は過ぎ。
 それでも、色褪せることはない。
 俺の中の時も、止まったまま。
 キミが、俺のほとんどを占めているんだ。
 また出会えた時、話そう。
 キミの知らない時間を過ごした、俺を…。

「……どうぞ」

「え、ああ…ありがとう」

 はっ、と気づいた時には、注文したコーヒーとフレンチトーストが出されていた。
 時の流れが早く感じる。
 キミの分まで、刻んでいるかのよう。
 それなら嬉しいと思う反面、止まって欲しいと思う。
 想いながら、コーヒーを飲む。

「あ……」
 
 寂しい、気がした。

「…何か?」

「あ、いや…美味いコーヒーだなって」

「…変わり者だな」

 言うと、それっきりだった。
 怒っている訳でも、嬉しい訳でもなく。
 俺に背を向けて、洗い物を始めた。
 寂しいと感じたのは、どうやら間違いではなさそうだ。
 マスターも、誰かを失っている。
 そういう人だから、俺には分かってしまう。
 悲しみだけで、生きている存在。
 キミなら、手を伸ばすだろうか。
 と、コーヒーが空になってしまった。

「マスター、さっきのブレンドをおかわりで」

「…………相当な変わり者だな」

 新しく入れられたコーヒーも、寂しい気がした。
 多分、何杯入れても変わらない味。
 それを飲める俺は、同じだからだ。
 
 もし、悲しみが消えたのなら…この味は、どうなっていくのだろう。

 空になったカップに、思った。


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※漸く進み出しました。
  まずはキッカケから。オムニバス形式は、もう少し先になります。

  【閃空輝光】は今日の午前中に更新予定です。

【紡ぐ、想いは遥か…】act.0


 身体が、泡のように溶ける。
 泡は光になり、散った。
 彼女を紡ぎあげていた町の想いが、還って行くのだ。
 それはまるで、流星雨。
 キラキラと、消える。

「それでも! それでも俺はっ!!」

 初めて、大切だと思った。
 初めて、失いたくないと強く想った。
 初めて、言葉にして、その名前を紡ぎたいと願った。

 側に、居続けて欲しかったんだ。
 それが不幸だったとしても。
 でも…何も残せない。
 同じ時間を進めないのなら。
 決断、するしかなかった。

「晴夏」

 俺は、待つさ。
 たとえ何十年の時が経とうとも。
 必ず、会えると…。


 この話は、キミが消えたここから始まる。


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※漸く【遥か、紡ぎ行く想い】の続編が始められました。
まだ16年分をどうするか手探り状態ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

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